物と記憶

物に宿る記憶。静かに、だがしっかりと、筆者の記憶の奥のほうにアクセスしてくる気がする。宝物のようなそれらを、少し拾い集めてみた。

物の値段ではない。そこに宿る記憶こそが価値なのである。

物の記憶~ハンカチ

介護施設の利用者さんの家族からのものだ。当時、筆者はその方の居室担当をしていた。認知症が進行している方だった。ご家族から「笑顔が増えて穏やかになったと感じています」と言われた。

こちらはプロだ。どの利用者さんにも穏やかに心豊かに過ごしていただきたいと毎日試行錯誤している。個人的に物をもらうのはいけないこと。それでもハンカチは受け取った。

ハンカチは日常使いするものだ。消耗品でもある。それでも、ハンカチを通して伝えられた気持ちをきちんと受け取りたいと思った。

ハンカチは、大切に使わせてもらいその役目を終えた。

物の記憶~お年玉

これ、介護施設の利用者さんから。その時、居室担当をしていた方である。流石にお金なので受け取ったが正規のルートでご家族にお返しした。まさかお年玉を渡されるという体験を30歳過ぎて経験するとはおもわなかった。

「毎日快適に過ごせている、細やかな配慮への感謝を込めて」と言われた。

「仕事なので当たり前のことをしているだけですよ」と伝えた。それでも人と人との仕事である以上、相性とか感じ方には個人差が大きいのかもしれない。だからなのか、居室担当は4ヶ月に1回のペースで変わることになっていた。

物の記憶~人体の不思議展チケット

在宅介護ヘルパーとして、かかわったご利用者さまのご家族から頂いた。「お仕事の役に立つのではないかと思って」と言っていた。こちらも本来、受け取ってはいけないもの。

でも、受け取って出かけて学んで血肉にした。図録を購入していまも見返すことがある。

人体の不思議展に関する評判はここでは関係ない。私が受け取ったのは「しごとへの誇り」なのだから。

物の記憶~オーダーメイドの帽子

頑張った自分への労いと合格記念(前倒しで)の意味で作ることにした帽子。介護福祉士2次試験の帰りのこと。2次試験は実技試験だ。

介護福祉士は施設で働く人が受験するひとの多くを占めている。なので試験内容もベッドからの介助とか椅子からなどが多い。しかし、この年は違った。床から立たせて移動して、上着を着せて外出の準備を整えるという流れだった。

ひやひやした。でもやり切った。とりあえず終わった。

開放感と少しおかしなテンションが、合格祝いを買いたいという方向へ向かわせた気がする。帽子はいまでは、少しくたっているが、見るとあの時の緊張感やら空気、終わった後の魂のやりばに困るような・・・それら全部が溢れてくる。

2年後?3年後かな・・・ケアマネージャーの試験を受ける。合格したのだが、合格祝いは特にしなかった。

物の記憶~ベネチアの絵画

イタリア旅行を企画していた。結婚をひかえた筆者と友人で行く予定だった。しかし、破談となり旅行もキャンセルとなった。

しばらくして、新聞の折込チラシで絵画の販売会を見かけた。足を運び、そこで出会ってしまったのが、ベネチアの風景画である。

生・イタリアもきっと素晴らしいだろう。しかし、絵画を通して広がる、妄想イタリアも実にいいのである。

物の記憶~スカーフ

ファッションの流行は繰り返されると言われている。けれど、次のブームの時には微妙に変化していることが多い。なので服は残さない。小物は残す。

残してあってもただそこにあるだけの物と、感情にアクセスしてくる物があるということが面白いところだ。

スカーフを選んだ時の、「温度」がまだ残っているからだろう。

教員としてはじめて卒業生を送る日に着るスーツに合わせようと選んだスカーフ。新卒の新米教員と高校3年生は歳が4つしか違わない。学生の延長のようで確実に違う立場や責任と必死に向き合って過ごした1年間。

卒業生を送るのにふさわしくありたいと必死だった自分。からかいながら励ましてくれた卒業生たち。

新人特有の何かが溢れてくる。背中が伸びる感じが好きだ。

おわりに

物のコレクターではない。それでも捨てられない物が多いのは、物に魂を宿してしまうからかもしれない。

物は多い。少しだけ困っている。だが、仕様変更をする予定はない。

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